牽引療法はやらない方がいいと思う理由~効果はない?悪化する危険は?~

腰や首の痛みや、手足のしびれに対する物理療法として、牽引療法というものがあります。

牽引療法とは

痛みのある部分(腰椎・頸椎など)をゆっくり引っ張り椎骨の隙間(椎間孔)を広げ、神経への圧迫をやわらげる治療法です。

骨と骨の間が狭くなると、神経が圧迫されて痛みやしびれが出るので、骨の間を広げてあげれば神経の通りが良くなるよね。
というシンプルな理屈です。
ストレッチ効果(血流促進など)も期待できるといわれています。

ところが

私の治療院に、
「『牽引療法』をしていたけど、良くならなかった。」
という方がよくいらっしゃいます。
以前に勤めていた整骨院(修行先)でも、同じような患者さんが多かったです。

また、私が体操指導にいっているデイサービスでも、
「牽引療法をしているけど、効果があるのかわからない。」
「逆に、悪くなることはないの?」
「主治医から『やらないほうがいい』と言われた。」
「首を引っ張るのは、何だかこわい。」

という話をよく聞きます。

実際のところ、効果はあるのか?
そして、本当にリスクはないのか?

私の経験も踏まえて、最近のデータから得た情報をまとめていきます。
最初に結論だけ書いておきます。
私個人としては、牽引療法はオススメできません。

実際に効果はあるのか?

現在報告されている研究では、腰痛(坐骨神経痛を含む)患者へ牽引治療を推奨するのに十分なエビデンスを提供していない。

腰痛診療ガイドライン2019

このように、最新のガイドラインでは「十分な根拠(証拠)がない。」とされています。
諸外国のガイドラインにおいても、効果には否定的です。

他の研究でも
・一時的に可動性が改善するが、すぐにもとに戻る。
・効果を感じている人も、プラシーボ効果(思い込み)である可能性が高い。
などと言われています。

また、私の専門学校時代のT先生は、
「牽引で良くなると思っている整形外科医はいない。」と仰っていました。
衝撃的だったので、よく覚えています。
ちなみに、T先生は整形外科医で柔道整復会の重鎮で、「整形外科学」の講師でした。

今のところ、牽引療法の効果を実証する科学的な根拠はないようです。

考えられるリスクは?

私が調べた限り、「明確に悪影響がある」という調査報告はありませんでした。
ここまでの話で、メリットもなければデメリットもないということになります。

それでも私が牽引治療をオススメできない理由は2つあります。
1つめは、私自身の経験や師匠の教えによるものです。
2つめは、ストレッチのデメリットについてです。

理由①:師匠の教えと自らの経験

私の師匠のS先生は、
「『牽引』を行っていた患者は、他の患者と比べて治りが2~3倍遅い。」
と仰っていました。
(S先生は、50年以上続く整骨院グループの本院の4代目院長です。)

曰く、
「引っ張っても、筋肉の固まっている部分がピンポイントで伸びるわけではない。」 
「むしろ、それ以外の部分が伸び切って傷つき、弾力を失ってしまう。」
「じゃあさ、肩がこったときに、重たい物を手で持てば肩の筋は引っ張られて伸びるけど、それで肩コリが治るかい?治らないだろ?」

単純な理屈ですが、単純だからこそ説得力があります。

そもそも、肩や腰の筋が硬くなってしまう主な理由は、引っ張られるストレスで傷つき炎症が起こるからです。
そして、これ以上引っ張られないよう自動で防衛反応が働き、筋を硬くしてしまいます。
これを筋性防御といいます。

伸ばされたせいで硬くなっているものをさらに伸ばせば、症状は悪化するのは目に見えています。
「牽引でシビレが悪化した。」という方もいらっしゃいました。
本当に牽引治療が原因だったのかは、今となってはわかりません。
しかし、ゴムをずっと伸ばしていたらクタクタになってしまうように、弾力を失った筋肉が骨を支えることができなくなった可能性があります。

私自身の経験からも、牽引治療で改善しなかった患者さんの背中を触診したときの感覚が、他の人とは異質だと感じることが多いです。
背中を触ってみて「あれ?」と思い、たずねてみたら「前に牽引治療を行ったことがある」ということもありました。

理由②:ストレッチのデメリット

また最近は、「運動前の静的ストレッチはパフォーマンスを下げる。」ともいわれています。

静的ストレッチとは、止まった状態で行う一般的なストレッチのことです。
(動的ストレッチは、動きながら反動つかって関節を伸ばす方法です。)

ストレッチを行うと、一時的に筋肉の弾力(収縮力)が失われてしまうそうです。
循環促進や短縮の予防には効果があるのですが、準備運動として行うのは避けたほうがよいとのこと。

さて、牽引治療は5~20kgの重さで10~30分ほど引っ張ることもあります。
ストレッチでさえこのような影響が(一時的とはいえ)あることから、長時間・強い力で引っ張り続ける方法に、何も影響がないとは考えにくいです。

また、引っ張る範囲も限定できず、多分節に及んでしまいます。
通常は、腰椎であれば3~4番の間もしくは4~5番の間など、一ヶ所の隙間だけを伸ばしたいケースが多いのですが、今の牽引療法では腰椎全体を引っ張ることしかできません。

腰痛の治し方をまとめた書籍にも、効果がないと感じたら止めるようにと書かれていました。

以上の理由から総合的に考えて、やはり牽引療法は人には薦めることはできないという結論に達しました。

正しく用いれば効果は期待できる

それでも、私は牽引療法そのものを否定しているわけではありません。

背骨が歪んで固まってしまっている人に対し、牽引で脊柱を伸ばしながら椎骨のズレを矯正していったところ改善したという話も聞いたこともあります。
このように、正しい治療手技や運動療法と組み合わせた総合的なリハビリにおいて、効果が認められたという研究報告もあります。

牽引療法という、手法それ自体は有用だと思います。
それを使う側に問題があるように感じます。

私の研修先のY先生(研究財団の創設者)は
「負荷・角度・時間など、全ての条件が適切に設定されていれば効果は期待できる。しかし、それが可能な医師は殆どいない。」
と仰っていました。
私はこの考え方を支持しています。

現在は、重さ・角度・姿勢などの最良の基準はなく、経験的に行なわれていることが多いです。
適応か否かの判断も不十分です。
言い方は悪いですが、どうしても適当に行われているような印象になってしまいます。

適応を分類するためのガイドラインもなくはないようですが、まだまだ精度が低いとのこと。

まとめ

・「効果がある」という科学的根拠は乏しい
・「害がある」という調査報告も見当たらない

・私個人としてはオススメできない
・設定をより細かく限定的に行えば効果は期待できる

現在はまだオススメすることはできませんが、牽引療法それ自体は有用性があると考えます。
設定方法や適応が詳細になることで、より効果的な治療法に発展する可能性は高いと思われます。

以上、牽引療法を薦めれて迷っていたり試してみようかと検討している方は、参考にしていただければ幸いです。

参考)
腰痛診療ガイドライン2019
腰の激痛 椎間板ヘルニア・ギックリ腰・すべり症・分離症・圧迫骨折 腰と脊椎の名医が教える 最高の治し方大全 ~聞きたくても聞けなかった150問に専門医が本音で回答! (健康実用)  菊地臣一 ほか
牽引療法の効果と問題点 物理療法系専門領域研究部会

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