デイサービスなどで、
「なかなか運動してくれない。」
「自宅でのトレーニングを提案しても続かない。」
ということがよくあります。
皆さんはどのように解決しているのでしょうか?
私は「交渉術」や「心理学」など用いてみたところ、少し効果がありました。
需要があるかはわかりませんが、そのことを書いていきます。
目次
ビジネス交渉術「ハイボールテクニック」を使う
ハイボールテクニックとは?【ざっくり解説】
最初に相手が絶対にキャッチできない高さにボールを投げ、次にギリギリ届く高さにボールを投げてキャッチさせるというテクニック。
つまり、最初に無理難題をふっかけて、次に本命の要求をすると受け入れてもらいやすいという話です。
例)
ある商品を5000円で売りたい
「こちら10000円ですけど、半額の5000円でいいですよ。」
→最初に10000円と聞いているので、5000円でもお得にみえる。
ハイボールテクニックを使って、運動メニューを提案
まず、何種類か(5~6つあれば十分)の運動メニューの資料を用意します。
次に、それらを見せながら「これ全部やってください。」と提案します。
相手が難色を示したら、「じゃあ、どれか1つでいいですよ。」と言います。
すると、「まぁ、1つだけなら。」と前向きに受け入れてもらえる可能性が高まります。
相手に選ばせることで「一貫性の法則」が働く
人間には「自分で選んだ」「自分で答えを出した」と思うと、「一貫性の法則」という心理が働き、それを貫こうと努力するようになります。
先の例であれば、5~6種類の運動メニューからどれか一つを必ず本人に選んでもらうことが重要です。
しかし、人間は選択肢が多いと選びきれないという「決定疲れ」をしてしまいます。
一般的には「選択肢は5種類まで」と言われていますが、高齢者は脳の機能が低下していることが多いので、選択肢は3つまでに抑えたいところです。
方法としては5~6のメニューのうち、本当にとり組んでほしい「本命のメニュー」を2~3つ入れておきます。
そして、本命のメニューの資料だけを見やすくしたり、それ以外のは極端に難しいものにしたりして選択肢から外すように誘導します。
あとは残った本命のメニュー2~3から、本人に選んでもらえばOKです。
結果的にはこちらが誘導をしているわけですが、自分が自発的に選んだと思わせることがとても重要です。
俗に言う、コミットメント(責任を伴った承認)を引き出すです。
「習慣化のメソッド」と組み合わせる
さらに、相手に選んでもらった運動メニューを、確実に「習慣」として定着してもらうための工夫をします。
①負荷(時間・回数など)を極端に軽くする
習慣化のためのセオリーとして「小さな変化から始める」というものがあります。
いきなり「スクワット20回」など、高すぎる目標は挫折しやすいです。
最初は「これなら確実にできる」というレベルから始めるべきです。
極端な話、スクワットだったら1回からでも良いです。
②いつ・どこでやるかを具体的に決めておく
これも習慣化のためのセオリーです。
新しい習慣を身に付けたい場合は「朝」がオススメとされています。
なぜか?朝が一番「意志力(やる気のようなもの)」があるからです。
もしくは、すでにある習慣や必ずする行動に結びつけるのが上策です。
例)
・朝起きて洗面台の前で足踏み10回
・トイレに行く時にかかと上げ3回
まとめ
・ハイボールテクニック
いくつかの運動メニューを用意し、「全部やってください。」と提案。
相手が難色を示したら「じゃあ、1つでいいですよ。」と再度提案。
・一貫性の法則
運動メニューを1つ、相手に自ら選んでもらう。
選択肢を外し、オススメのメニューに誘導する。
・習慣化のメソッド
選んだ運動メニューの回数や時間を、極端に少なく設定する。
例:スクワット1回・片足立ち5秒
では最後に、実際に高齢者とのやり取りを見てみましょう。
実際のやり取りの例
ここからは、過去に私が実際に行ったやり取りです。
相手はデイサービスの利用者のAさん、膝の具合が悪い人でした。
まずは膝に効果のある運動メニューを、5~6種類ほど用意。
5~6コのうち、本命のメニューは2~3コ、その他は極端に難しいか優しすぎるかのメニューにしておきます。
そして、それらを提示しながら
私「こちらが膝に効く運動です。自宅でとり組んでみてください!」
Aさん「え?は、はい、わかりました・・・。」
この時点ではっきりと「イヤです。」という人はほとんどいません。
しかし明らかに表情は固く、しかたなく「はい。」と答えているのは明白。
このままでは恐らくは実行しない、もしくはその日だけで継続はしないでしょう。
私「でも、全部は大変ですよね?どれか1つでいいですよ。」
Aさん「え?」
ここで表情が変わります。
「1つでいいんですか?」という前向きな表情になることが多いです。
そして本命のメニューに、選択肢を絞りながら誘導します。
私「これはちょっと難しいかもしれません。こっちは簡単すぎて意味がないかもしれません。」
Aさん「じゃあ、これならできるかも。」(本命のメニューを指差す)
相手に選ばせることに成功。
すかさず褒める。
私「いいですね。確かにこれが一番あなたにフィットしています。よくわかっていらっしゃる。」
この時、私はつとめて淡々とした口調で相手を褒めます。
オーバーな言い方よりも、相手に説得力が伝わるような気がします。
(あくまで私の場合です。人によってやり方は変えていいと思います。)
私「何回くらいできそうですか?10回?20回?」←(これもハイボールテクニック)
Aさん「じゃあ、10回・・・」
私「OK、3回でいいです。」
Aさん「3回でいいんですか?」
私「そのかわり、毎日やってくださいね。」←(ローボールテクニック+習慣化のメソッド)
Aさん「わかりました。」
私「いつやります?オススメは朝起きた後、お昼ごはんの前、夜寝る前のどれかです。」
習慣化のメソッド+相手に選ばせる一貫性の法則、提示する選択肢も3つまで。
Aさん「じゃあ、お昼ごはんの前にやります。」
私「よろしくおねがいしまーす。」
後日
私「運動メニューは、とり組んでいただけていますか?」
Aさん「はい、毎日やってます。3回でいいと言われましたが、何だかんだで10回くらいやっちゃいますね。」
めでたしめでたし。
完
これはとても上手くいったケースです。
このように理想的にことが運ぶ確率は50%ほどです。
認知症などで、会話したこと自体を忘れてしまう方もいます。
それでも試す価値はあると考えます。
なかなかに困難な道ですが、諦めずにトライしていきましょう。